炎と楽園のアート

温室育ち

※初めに無理に読むことをお勧めしません。

立花雪 YukiTachibana
立花雪 YukiTachibana

先日食堂で夢狂さんが居合わせた男性に

『空手のお師匠さんですか?』と話しかけた。

一見怖そうな雰囲気。けれどその一言から会話が繋がり、

『実は昔三年殺しを受けたんだけど今も元気で…』

会話は楽しそうに続いていた。居合わせた人が空手をしていた事を

手の甲の具合で見抜いた夢狂さん。夢狂さんも空手を習っていたので

手の甲の話は良く話してくれたけど、

会話の引き出しというのは何処に隠れているかわからないものだと実感。

 

 

 

 

それから間もなくして鶏たちに異変が。

夕暮れの叫び声。

卵を産んで教えてくれる声とは違い耐え難い大きな叫び声。

二羽の鶏は高い所に避難している様子で一羽だけ見当たらない。

網を張り巡らせた場所に私ですら入れないようになっていた。

 

今年から二ヶ所散歩出来るスペースを作っていて

可愛さのあまりそこに自由にさせ

小屋暮らしから抜け出していた鶏たち。

猫も外敵にならず温室育ちのような環境。

 

周囲が暗くなる中叫び声は続く。

騒ぐ様子も一切なく声だけが響く。

外側から何度も騒ぎ立て正体を確認するしかない。

すると二匹の侵入者を確認。

 

横姿はスマートで小柄のイタチ。正面はタヌキ。色は真っ白で…

とにかく侵入者二匹を追い出せばと考えたのも束の間

高い所に避難していた二羽の鶏たちも

何故か降りてきてパニック状態に…

夢狂さんに連絡を入れつつ一人で必死。

侵入者はようやく一匹逃げて

もう一匹の侵入者は餌としての鶏を諦めきれず

再度同じ場所の鶏を襲いに戻ってしまう…

 

そして仲間の鶏も侵入者を追って一緒に中へ…

 

絶体絶命。

夢狂さんに三羽とも絶望的と伝えるしかなかった。

 

帰って来た夢狂さんは玄関の武器を手に

侵入者に容赦なく致命傷を与えている様子で

本当に恐ろしかった。

 

伸びきった遺体を遠くに置き去ると

鶏と侵入者の中での詳細を教えてくれた。

 

夢狂さんが見た時一羽の鶏は既に出血死していて

侵入者は鶏に静かに覆いかぶさっていた。

一方弱いはずの鶏の仲間は

侵入者の上に堂々と乗って懲らしめている様子だったという。

 

…絶対絶命と思っていた鶏たち

仲間を救いに向ったのだろうか…

 

翌朝

侵入者の遺体を確認しに行くと姿は消えていた。

 

後で真っ白なタヌキだったと知った。

タヌキは死んだふりをすると聞き納得。

その後も夢狂さんは

走り抜ける白いタヌキを車内から何度か確認。

 

生き残った鶏たちは元の小屋に戻り安全は確保された。

その代わり毎日の自由は狭まり

危険を感じると甲高く呼ぶようになった。

 

自由というのは好きに生きれるという保証すらないけれど。

 

これは初めて書く事。

私の母が死亡するかもしれない時

唯一助けてくれたのは

刑期を終えた人だった。

 

昔の恩があって噂を聞きつけて

尋ねに来てくれた。

その人の人生は不自由の中の自由。

好きなように生きてるようには見えず

にこりとも笑わない。

楽しそうな会話にも一切入らない。

 

世間が許してくれようがくれまいが

秘めた事は全て覆い隠し

信じてくれる人なんていない

一人で抱えていく現実、責任。

 

刑期中、知人に代わってお弁当を届けてくれた母に

大きな恩を受けていたという気持ちで過ごしていた。

 

ハトポッポのような時間で仕事に生き

覚悟を持って世間に適応している姿

十数年前の私は素直に受け止め接していました。

 

保証人の話が出て断ってから消息は分かりません。

 

終わりはなく一生消えず背負い続ける罪と責任。

私は一度もその人の事を忘れたことはない。

その人も地獄を知ってるし

楽園も知っている人だと感じるから。

 

今も何か起きるたび思い出しては自問自答をしている。